高市内閣の『憲法改正』について思うこと_その2
一九二五(大正十四)年五月、第一次加藤高明内閣のもとで普通選挙法案が成立した。
これによって選挙人資格から納税要件が撤廃され、満二十五歳以上の男子に選挙権があたえられた。
しかし、普通選挙法が施工されて、これまで納税要件を満たしていなかった人達に広く選挙権が与えられるようになると、社会に自由主義や社会主義、中でも当時ロシア革命が起こり、長く続いた帝政ロシアが共産主義革命によって倒され、世界中に共産主義革命の嵐が吹き荒れると天皇制を否定する共産主義が勢力を広げることを恐れた枢密院は、普通選挙法を成立させる条件として、治安維持法とセットで法案を成立させることを要求したのである。
【治安維持法】の内容は、「国体ヲ変革シ、及ビ私有財産制度ヲ否認セントスル」いっさいの結社および運動を禁止し、違反者は懲役十年以下の刑に処するという内容である。
ところが、昭和三年に三・一五事件が起こると、田中義一内閣は、帝国議会閉会中に天皇大権(緊急勅令)をもって、刑罰を懲役十年以下の刑から上限を死刑に引上げる大改正を行い、さらに全国に特高警察制度を布いて、反戦運動や労働組合運動や政府の政策に批判的な社会運動を取締まった。なかでも、共産党に対する弾圧はすさまじいものであった。
【蟹工船】や【一九二八年三月十五日】を書いたプロレタリア文学の小説家、小林多喜二が、治安維持法違反容疑で特高警察に逮捕され、警視庁築地署で六時間に及ぶ過酷な取り調べ中に拷問によるショック死をしたことは有名である。
日本は昭和三年の田中義一内閣の天皇大権(緊急勅令)による治安維持法改正により、日本国内の言論の自由を制限をして、政府に批判的な言論の徹底した取り締まりを行った。それにより軍国主義色を強めた日本は、昭和六年九月十八日の満州事変、昭和十二年七月七日の盧溝橋事件により本格的に日中戦争の泥沼に突入する。そして、政府は国家総動員法により国民の基本的人権と財産と自由を戦時下において大幅に制限して、戦時体制を整え昭和十六年十二月八日真珠湾奇襲攻撃でアメリカ・イギリスとの戦争を開始して激しい戦闘を続けましたが、米英との国力の差を埋めることができず昭和二十年八月十五日、日本政府はアメリカ・イギリス・中国・ソ連によるポツダム宣言を受けて無条件降伏しました。
日本人犠牲者は320万人、沖縄では唯の一地上戦が行われ沖縄県民約10万人を含む約19万人の戦死者を出し、広島と長崎に原子爆弾を落とされ人類史上初の原爆による壊滅的な被害を受けました。また、東京をはじめとする日本のほぼ全土が昭和十九年十一月二十四日から始まったB29による本格的な無差別爆撃により約30万人の死者を出した。中でも東京に対する空爆は激しく、B29による無差別爆撃は110回に及び昭和二十年三月十日の東京大空襲では、一夜に十万人もの市民が犠牲になった。
昨年、自民党の高市政権が発足して7か月が経ち、今高市内閣は『憲法改正』に向けて国会での議論を加速させている。
高市首相は、憲法に自衛隊を明記して、また、【緊急事態条項】を入れようとしている。
【緊急事態条項】とは、台湾有事や地震などの災害時に内閣は国会での決議をすることなく緊急事態に対応するための法律を成立することができるというものだ。これは明治憲法第八条の天皇大権(緊急勅令)と同様の権限を内閣に持たせるというものである。明治憲法における天皇大権(緊急勅令)では、議会を通さずに法律をつくることができる一方で国会の事後承認が必要とされたが、治安維持法など天皇大権を使って成立した法律が議会で承認されずに廃案になったことは、一度もなかったのである。
もし、高市内閣によって憲法改正が国会で承認され、国民投票で憲法改正が認められて、自衛隊が憲法に明記され、また、【緊急事態条項】が加えられた場合、仮に台湾有事が発生した場合に一体どのような事態が起こるかを考えて不安に思うのは私だけであろうか?
憲法に自衛隊が明記されることで、台湾有事の際に自衛隊を合法的に台湾海峡に派遣することができるようになる。
日米安保条約では、自衛隊は在日米軍の後方支援を行うことが求められているが、台湾有事の際、自衛隊は在日米軍の指揮命令系統に入り、在日米軍の指揮命令によって後方支援だけではなく、在日米軍の戦力の一部として戦わなければならないはずである。また、台湾有事が起きた時点で、内閣は【緊急事態条項】により有事の際に必要な治安維持法や国家総動員法を国会の決議を経ずに成立させて戦時体制をつくり上げなければならない。国民の基本的人権・自由・財産に対して戦時下の政府が制限をするのは当然のことで、先の大戦の経験から学習すべきである。
また、台湾有事が起これば、自衛隊が何とかしてくれると高を括っている人もいるかもしれないが、それは大きな間違いである。現在の自衛隊の兵力は、陸・空・海の全自衛隊員で約25万人である。一方、中国は約200万人いるといわれている。
戦争が1週間や1か月の短期で終われば良いが、アメリカとイスラエルによる国際法違反の攻撃により始まったイラン戦争は3か月が経過しても終戦の気配すら見えない。
中国と本格的な戦争になった場合、自衛隊25万人は明らかに兵力不足である。そのため政府は国家総動員法により若者達を対象に徴兵を行わなければ戦争を継続することができないことも明白である。
先の日中戦争では、政府も陸軍も半年で中国の首都南京を陥落させて戦争に勝利することができると豪語して戦争を始めたが、半年どころか八年が経過しても戦争に勝利することができず、遂には中国を支援するアメリカ・イギリスとの戦争に踏み切らざるを得なかった歴史を真剣に学ばなければならない。日中戦争では、満州の関東軍80万人、中国戦線には、戦争開始時に約95万人、1945年には550万人もの兵を動員していた。中国は国土が広大すぎてこれだけの兵員を動員しても戦いに勝つことはできなかったのである。
高市内閣は、憲法改正を本気で成し遂げようと意気込んでいるが、今、本当に憲法改正が必要なのかを今一度立ち止まって考えるべきである。歴史は繰り返すとよく言われるが、先の大戦を経験した世代が去り、戦後平和憲法に守られて育った世代の国会議員ばかりになった今だからこそ、先の大戦の教訓をしっかりと学び直す必要があるのではないだろうか。